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読み切り短編小説 ―――ライラック―――
- 2006/12/31(Sun) -


―――今まで過去に認識してきた不安定な記憶と、安定した時間で流れる現実。―――


―――あなたは………、どちらを信じますか………?―――




桜の木々から、花びらが舞うように散り行く季節がもう直ぐ終わりを告げ、緑眩い草木が茂る五月初頭。
 背中を丸め、猫背の格好で駅のホームに引かれている白線の内側に立つ。
 早朝からのハードな仕事を終え、疲れた体を支えながら、帰りの電車を待っている所だ。
 俺は、久我谷弘忠(くがやひろただ)。工業科の高校を卒業して、一昨年の四月から、主に精密機械などの基盤を作る会社に勤め始めた。
 入社してから三年目、上司から大事な仕事を任される事も多くなった。
 内の会社は、日曜日が休みの為、土曜日に、休みの日曜日の分も製品を出荷しなければならないので、仕事量が一番ハードだ。
 そして、今日は、その土曜日。
 ズボンのポケットから携帯電話を取り出し、今の時間を確認する。
 十八時四十五分、と告げる携帯の画面を見ながら、〝はぁ〟と溜め息を吐く。
 
 暫くすると、もう直ぐこの駅に電車が到着する内容のアナウンスがホームに備え付けてあるスピーカーから流れた。
 電車は、キッキキッ!とブレーキ音を鳴らし、目の前をスライドして行く。
 プシュー!
 定位置に止まった電車は、乗車するお客達の列を出迎える様に、一斉に開く。
 そして、乗り込む時に決まって、うんざりする程の感覚を目の辺りにするのだ。
「うっ!ぐっ!」
 後から押されるを必死で抑えるが、自分ひとりの力ではどうにもならない。
 屁理屈な話かもしれないけど、俺は、我こそはと言わんばかりに、電車へ逸早く乗り込み、席争いをする彼らの気持ちは、あまり分からない。
 確かに、長乗りする人にとっては、座った方が楽かもしれない。
 だけど、自分は立っている方が、何となく落ち着くのだ。その方が性に合っているらしい。
 後から押された勢いで、仕方なく端の吊り革を掴んで落ち着く事にした。
 今日は、土曜日と言う事もあって、普段の平日よりは、電車へ乗り込む人が多い。車内に入ってから少々押される形となった。
 ドン。
「きゃ!」
 後から入って来る客に押させた勢いなのだろう。俺の左肩へ顔からぶつかって来た女性。
「す、すみません!」
 彼女は、俯きながら、俺の顔を見ずに直ぐ謝って来た。
「いや、大丈夫だよ。今のは、後から押されたからでしょ?不可抗力だから仕方ないよ」
 俺は、ぶつかって来た彼女を庇う様に、事故だと強調した言葉を発した。
「いえ、私がぼけっとしていたから悪いんです。すみませんでした!」
 しかし、彼女は、あくまで自分が悪いと、再び俺に謝ったのだ。
 そんな彼女を見ると、内気で、損をする性格なんだろうな、と心の中で思いながら、多分、俺とそんなに年が変わらないであろう彼女を見据える。
 でも、その雰囲気が何となく懐かしくて、とても心が落ち着く、不思議な感覚とほのかに甘い空気が、俺の心に入り込んで来る様な錯覚を覚える。
「あ、あのー」
 突然、彼女の方から話を掛けて来た。
「あ?」
 正直、呆けていた俺は、つい見っとも無い返事を返してしまった。
「私の頭に何か付いてます?」
 彼女は、俺にそう問い掛けると、横顔の状態から、俺の方に完全に振り向いた。
「えっ!!」
 俺は、彼女の顔を見て、驚いてしまった。そして、直ぐにある事を聞き返した。
「あれっ!もしかして、な……つき………?」
「えっ?!」
 案の定、彼女も図星だったらしく、俺と同じ様に驚いた顔をした。
「ほらっ、俺だよ!昔、小さい頃、隣の家に住んでいた、弘忠だよ!」
 俺は、早とちり気味に喜びそうな気持ちを抑え、必死に昔の記憶を思い出させた。
「ヒロ……君…?」
 彼女も小さい頃の記憶を廻らす様に、思い出したのだろう。彼女は、〝なつき〟本人である決定的な言葉を発したのだ。
 何となく見た事のある面影だなと、気にしてはいたが、まさかその本人だったとは、正直、思っても見なかった。
 やはり偶然はあるのだと、俺はこの時、素直に彼女との再会できた事を喜んでいた。


 この再会が、曖昧な物とは知らずに―――――。




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      ―― ライラック ――
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 俺が、〝なつき〟と初めて出会ったのは、物心付いて直ぐだった………と思う。
 季節は、強い風が吹く、秋口だった。
 そんな幼少の頃、幼稚園から母親と一緒に家まで帰って来きて、玄関に立つと、隣の家でぽつんと一人、自分と同じ位の女の子の姿が目に入った。
「あの子だぁれ?」
 幼い時の俺は、見た事のない女の子を見て、自然と母親に尋ねた。
 すると母親は、直ぐ答えてくれた。
「あの子はね、昨日、引っ越して来たばかりのお隣さんのお嬢ちゃんよ。そうだ!ヒロ君も、お着替え済んだら、あの子と遊んでらっしゃい」
 母親は、閃いた様に、言う。
「うん。分かった」
 俺も、母親の言う事を聞いて、素直に頷き、急いで家の中へ入る。
 隣の子が気になっていらのだろう。急いで、幼稚園の制服を脱いで、私服に着替えた俺は、母親に呼び止められる言葉も聞かず、上着の襟を立てたまま玄関へと駆け出した。
 そして、まだ幼い俺には大き過ぎる位の重い扉を、勢い良く開ける。玄関先に置いてある小さなオモチャのバケツとスコップを持って……。
 玄関の外へ出た俺は、直ぐに、女の子の姿を確認すると、家の鉄の門を開け、隣の家の門を掴みながら、その女の子に声を掛けた。
「何やってるの?」
 そんな唐突とも言える俺の声に、気付いたその女の子は、作業を止めて、立ち上がると、俺の所へ駆け寄って来た。
 駆け寄って来た彼女と同時に、不思議な感覚に襲われる。それは、ほのかに甘い匂いに誘われ、心がとても落ち着いて、気持ちの良い心地がしたのだった。
「だぁれ?」
 女の子は、不思議そうに首を横に傾けて、尋ねた。
 俺は、そんな不思議そうに見る彼女を、笑顔で答えた。
「僕は、くがやひろただ!君の名前は、何て言うの?」
 すると、彼女も、笑顔で答えてくれた。
「私、かじえなつき」
 そう。彼女は、梶重夏季と言う名前だった。
 そして、俺は、なつきに招かれると、今まで何か作業していた場所に手を引っ張られならがら連れて行かれ、なつきは、家の庭にある花壇の所まで俺を連れ来ると、下を向きながら、指を指して俺に言った。
「この木、いつお花が咲くか、見てるの」
「これ、もう直ぐお花咲くの?」
 俺は、まだ、枝が細く、所々しか葉っぱの付いていない小さな木を見て、そう返した。
「………分からない」
 なつきは、顔を曇らせて、不安な様子で呟いた。
 ガチャッ!
 その時、なつきの家の玄関が突然開いた。そして、中から人が出て来た。
「あら!なつきちゃんのお友達?」
 開口一番に笑顔でそう出迎えてくれた、その人は、なつきの母親だった。
 俺と、なつきは、目を一回合わせてから、なつきは、喜んだ様に、うん!、と胸を張って答えた。
 俺は、幼稚園で誰とでも遊ぶけど、それは幼稚園の中だけで、幼稚園以外の子と友達に成れたのは、なつきが初めてだった。
 だから、そんななつきの一言が、俺にとって、とても嬉しかった。
「ねぇねぇ、お母さん!この木、いつお花を咲かせるの?」
 なつきは、突然、自分の母親の服の袖を引っ張りながら、小さな木の方へ指を指して尋ねた。
「この木は、前の家から持って来て、昨日、お母さんと一緒になつきちゃんと植えたばかりでしょ。この木はね、ライラックって言うのよ。これから寒くなるから、また来年、暖かくなるまで、お花は咲かないの」
 なつきの母親は、なつきの頭を撫でながら、あやす様に答えた。
「じゃあ、どうしたら、早く咲くようにるの?」
「そうねぇ……、直ぐには無理かもしれないけど、なつきちゃんが良い子にしてたら、早くお花を咲かせるかも知れないわね」
 なつきの母親は、そう言うと、うまくなつきを説得した。そして、俺の方を向いて、質問して来た。
「僕、お名前は、何て言うの?」
「くがやひろただ!」
「そう。ひろ君って言うの。久我谷さんって事は、お隣さんね。始めまして、ひろ君!」
 なつきの母親は、俺に対して、笑顔で挨拶してくれた。 
 それ以来、家が隣同士、俺の母親も、なつきの母親と直ぐに打ち解けて、お互い家族ぐるみの付き合いが始まった。
 暫くして、なつきも、途中から俺と一緒の幼稚園へ通う事となったのだ。
 幼稚園では、男の子は、アスレチックの遊具を好んで遊び、女の子は、砂場で山やお城を造ったり、花壇に咲いているパンジーなどを観察するなど、それぞれ独特の遊び方が別れる事が多い中、なつきが幼稚園に入園してから、俺は、幼稚園でも、なつきと遊ぶ様になっていた。不思議と、なつきと一緒だと、とても気持ちが落ち着くのだった。
 男である俺と、女であるなつきが、いつも一緒な所を、ませた子が、からかいそうな物だが、何故か、その事に触れる者は、いなかった。むしろ、幼稚園で遊ぶ子供たちの枠から外れた俺達は、傍から見ても、完全に浮いている状態にも拘らず、幼稚園の先生達も、そんな俺達に無関心な様子だった。まるで、俺達二人の存在に誰も気付いていないかの様に………。


 俺は、子供ながらに、その事で、少し違和感を感じていた。でも、心は不思議と落ち着いた。


 そんな不思議な違和感に囚われながらも、時はあっと言う間に過ぎ去り、俺となつきは、十歳になろうとしていた。
 新学年、新学期の新鮮な生活に慣れた頃、相変わらず、小学校に上がってから四年間、なつきとは一緒のクラスだった。
 小学校に上がっても、ちょっとした事では、誰からも注意を引く事はなかった。それは、なつきも同様で、存在感の薄い感じだった。
 だが、他のクラスメイトに声を掛けると、ちゃんと反応してくれたし、会話もした。だから特別、困る事も無かったし、俺はそれで良いと思っていた。なつきの気持ちは、分からなかったが、多分彼女もそれで良かったと思っていたに違いなかった。
 学校の日程が終わり、放課後は学校内に残らずに下校する事が多かった。
 この頃になると良く、なつきと家にカバンを置いて直ぐ外へ駆け出して、ちょっとした山や家近くの河川敷で、冒険じみた遊びをする様になり、空が暗くなるまで家には帰らなくなる日もあり、お互い、心配した母親に叱られる事も少なくなかった。
「ヒロ君、私、良い所見つけたんだぁ!」
 学校からの下校途中に、突然なつきが俺に話を切り出した。
「良い所?」
 見当もつかない俺は、首を斜めにして、聞き返した。
「うん!すご~く良い所。気になる?」
 なつきは、悪戯っぽく笑って、俺に聞いてきた。
「そりゃ~、気になるよ。なつきが良い所って言う場所を俺も行ってみたいよ!」
「じゃあ、私に着いて来て。案内するから」
 なつきにそう言われて、俺も一体どんな所かと、頭で考えながら、帰宅路からはずれて、着いていく。 
 その場所は、俺となつきの住んでいる町から少しだけ離れた所に、中心の二車線の道路を挟んで、両サイドに家々が連なる丘があって、その丘の頂上の事だった。
 丘と言っても、走れば、ものの二分位で頂上まで着いてしまう程。
 その丘の頂上に着くと、家と言う建物が無く、所々に草木が茂っている程度の殺風景な所なのだ。だけども、なつきは、真っ先に、ある一本の木へ駆け寄って、これこれ、と手招きで、俺を呼んだのだ。
 その木は、大木と言う程大きくは無く、大人の人より少し高い位の中木。枝全体に葉っぱが実り、枝の先の方に白っぽく、薄く紫がかった花を咲かせていた。
 時期は丁度、四月の下旬。この頃は、知らなかったが、目の前の木は、旬を迎えていたのだった。
「この花綺麗でしょ!この木、何て言う木か憶えてる?」
 なつきは、得意げな顔で、聞いてきた。
「えっ!?いきなり言われても、分からないよ。花の形は、紫陽花に似てるけど………」
 初めて見る薄紫の小さな花々に見惚れていた俺は、その花から漂う香りが何となく懐かしく、そして落ち着く。
「これはね、ライラックって言うの。私、このライラックの花の色も形も好きなの」
 なつきは、まるで告白する様に、その木が何であるかを答えてくれた。
 そして、俺はこの時、なつきと初めて出合った時を思い出した。
 初めて会った時に、庭に植えていたのも確か………
「なつき!思い出した!!このライラックは確か、なつきの家の庭にも植わってる木と一緒だろ?」
 俺がそう答えると、クスッと軽く握り締めた手を口元に当てて笑う。
「当たり。実はその木がこれなの」
「えっ!?何でわざわざこんな所に植え替えたんだ?もっと近くでも良かったんじゃないか?」
「ううん。此処に植えたのには、ちゃんと、理由があるの………」
「理由?」
「そう。一つはね、家の小さい庭だと、ライラックが大きくなって、きっと窮屈だと思うから、此処にしたの」
 なつきは、ライラックの木の葉っぱを触りながら、何処か寂しそうな表情を浮かべた。
 そんな、なつきを見た俺は、嫌な胸騒ぎを感じた。
「もう一つの理由はね………、私、もうこの町に居られなくなっちゃうから……、私の特別な場所を残したいから……此処に植えたの」
 この時、俺の頭の中では、もうライラックの事よりも、いつも一緒に居てくれたなつきが居なくなる事の方で、いっぱいだった。
「えっ?嘘だろ?そんな話……聞いてなかったぜ。引っ越すのか?ど、何処かに引っ越すのか?遠いのかそこは?」
「イタッ!痛いよヒロ君」
 あまりにもショッキングな事で気が動転していたのだろうか、俺は、なつきの両肩を強く握っていた。
「あっ、ゴメン!悪かった……強く握ったりして……」
 俺の顔は、なつきに、どう移っていたのだろうか、なつきの顔はより一層雲が掛かってしまっていた。
「ううん。良いの。私が悪いんだから。お父さんのお仕事の都合で、引っ越す事は前から分かっていた事だったの。だけど、その事をヒロ君に伝えなきゃと思っても、辛くなるからなかなか切り出せ無くて、それで……」  
 今でも鮮明に覚えている。今まであまり見た事の無い…いや、初めてかも知れない。大粒の涙を流しながら泣きじゃくるなつきの姿を………
 後は、唯、ゴメンね、ゴメンねと繰り返すなつきの言葉を聞きながら、俺は、なつきの頭を軽く撫でてあやしていた。

 結局、なつきはこの2日後に、何処かへ引っ越してしまった。
 なつきが引っ越してしまった後。なつきの新しい連絡先を何回か俺は母に尋ねたけど分からないらしく、そのまま時が過ぎてゆく中で、いつの間にかなつき自体、俺の記憶から消えて行ったのだ―――。


「―――――――――――――――」


「……君」
 何か聞こえる。
「ヒロ君?」
 自分の中の世界から、急に現実の世界へと引き戻される感覚を憶えた。
「ねぇ、ヒロ君、何ボーっとしてるの?」
「あっ、御免。何だっけ?」
 久しぶりに会った、夏季と駅から降りて、ずっと今まであの頃の思いで話しをして行く内に、いつしか忘れていた過去の記憶がフェイドバックして来て、どうやら自分の世界に入っていたらしい。
 俺は、慌てて誤魔化す様に返事を返した。
「えっ?何だっけって、これから私の特別な場所に行くって言ったじゃない」
「あ…ああ、そうだよなっ。そうだそうだ!」
 夏季と思い出話しをしていた俺は、いつの間にか、例の丘まで来ていた。
「此処は、町の外れだから、あまり通らないけど、家々が当時より寂れている位で、何も変ってないなぁ~」
 俺は、丘の坂道の両端に連なる家々を眺めながら言った。
「………そうだね。何も変ってないね。でも、変わってなくて、ホッとしたよ!」
 夏季は、何処か嬉しそうに呟く。
「この辺は、今一栄えてないからかもなぁ~」
「あっ、シー。近所の家の人が聞いたら、怒るよ。ヒロ君!」
 俺の言葉に慌てて人差し指を立てて止める夏樹。
 暫く丘の歩道を登って行くと、途中で勾配が緩くなった。
「あっ!あった。ライラック!」
 そう、ライラックの木の方向を指差す夏季。夏樹の指さす方向の先には、あの頃よりも立派で、幹も枝先も太く丈夫な木がそこにあった。
 夏季は、木を発見すると早歩きになって、そして駆け出した。
 そんな夏季の駆け出す後姿が、あの時とまったく一緒だった。まるで、あの時の頃に戻ったのではないかと錯覚する位に。
 俺も、夏期の様にそのライラックの木に駆け寄ると、今が丁度ライラックの花が綺麗に薄紫色に咲いている。
 そして、あの懐かしい甘い香り………。
「夏季の特別な場所が存在していて、良かったなぁ!」
「うん。そうだね。私も、本当は、目で確認するまでちゃんとこのライラック木があるかどうか心配だった」
 ライラックの木は、あの頃見た時よりも、大きくなっていた。そして、その大きさの違いが、過ぎて行った時間を表していた。
「ねぇ、ヒロ君」
 突然、夏季が尋ねて来た。
「ん?なんだ?」
「ヒロ君に、この木の事をずっと憶えていて欲しい………」
「急に、何だよ。どうした?」
 俺は聞き返しながら、ライラックを見詰める夏季の顔を見て、嫌な胸騒ぎを感じる。
「ヒロ君の心の中にずっと留めて置いて欲しい………」
「見た物は、そんなに簡単に忘れないさぁ。それに、毎回此処に来れば、この時期はいつでもライラックを見れるじゃないか!」
 ―――又だ―――
 俺は、言葉で言っている事に反して、心の何処かでは不安になってる。
 夏季の言いたい事が、分かってしまいそうで……、それが苦しくて……。
「ううん。違うの。もう限界だから……今の内に大切な事をヒロ君に伝えたい!」
「えっ?何…が?どうしたん……だよ。言っている事が分からないよっ!」
 ―――嘘だ―――
 俺は、本当は夏季が離れてしまうんじゃないかと、消えてしまうんじゃないかと心配で堪らない。
 俺の思っている事が、現実になりそうで……、それが痛くて……。
「私ね、最初から、出会った時から、ヒロ君の事が……□□□□……だったよ!」
 行き成り、俺と夏季の周りで、激しい突風が吹き荒れる。
「御免。今、風の音で聞こえなかった…うわっ!」
 目に砂埃が入ったのか、俺は自分の腕で一瞬目を押さえた。
 すると、途端に荒々しく吹き荒れた風が嘘の様に静まり返る。
「夏季…、大丈夫だっ………」
 そこには、夏季の姿は無い。
 そして、大きく育った筈のライラックの木が、夏季の特別な場所が最初から存在していなかったかの様に自然な形で無くなっていた。
 俺は、夏季が此処へ来たいと話した時から、何となくこうなる事に気付いていた。
 あの時もそうだ。普段とは違った雰囲気で、此処の場所を教えてくれた事に、不安を感じていた。
 いづれこうなる事が分かっていたなら、何であの時に、夏季が引っ越してしまう時に引き止めてあげられなかったのだろうか?
 どうして、本当の自分の気持ちを伝えてあげられなかったのだろうか?
 唯、あの時に夏季が流した大粒の涙を今は、俺自身が流していた。




 その後、不思議な現象が、起きた。
 最初は夏季を探す目的で、小学校時代の友達、親、隣近所まで回って、夏季又は、夏季の家族の事を聞いても口を揃えて知らないと答える。
 夏季の家族とも一番親しくしていた筈の親に何度も問いただしたが、最初から知りあっていない様な態度で、誰?と逆に問われてしまう位だった。
 俺は、自分の記憶に不安を感じ始め、小学校時代のアルバムを取り出して、確認する事にした。
「確か、二年生の時の運動会の時に夏季と一緒に二人三脚で写っている写真があったと思うだけどなぁ…」
 そんな事を呟きながら俺は、押入れのダンボールを引っ張り出し、その写真のあるアルバムを無造作に捲って行く。
「あっ!あったっ!」
 その写真をアルバムのケースから取り出して確認する。
 しかし、その写真は、確かに自分ともう一人女の子と二人三脚をしている写真だったが、その女の子は夏季ではなく、当時のクラスメイトで、別の女の子の者だった。
「ああ、これで自分の記憶を裏付けするものが無くなったなぁ………」
 俺は、そのまま力を抜いて後ろへ手を頭の後ろに組んだ状態で倒れ込み、静かに眼を瞑る。
 
 夏季の匂い。それは、ライラックの匂い。

 鼻を擽る仄かに香る甘い匂い。
 
 俺はあの時、確かに感じた匂い。
 
 そのライラックの匂いは、とても辛くて………、痛くて……………、でも、懐かしい匂い。

 俺の記憶の殆どが、そこに詰まっている様な感じがする……………………。

 夏季が最後に言った言葉は、聞き取れなかったけど、何となく分かる気がする……………………………。



 夏季が好きだった、ライラックの花言葉。それは――――――――――――――


                       [END]






実は、このライラックと言う短編小説。以前、近日公開と宣言しておいて、アップ出来なく、期待してくれました皆様にご迷惑をお掛けしました、物です。時間がありましたら、[Gimmick box]の方も書かせて頂きたく思います。

さて、このライラックと言うお話、長い上にかなりグレーゾーンな内容に仕上がっておりまして、呼んで頂きました方の中には、釈然としないと言う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、後半の余韻は、読んで下さいました皆様のそれぞれの解釈に身を委ねてみたい私です。

このライラックに、長々とお付き合い頂きまして、誠に有難う御座いましたm(_ _)mペコリ
 
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コメント
-おはようございます-
「ライラック」
読みました。

私は、この小説
好きです(*^^*)

何だか、切なくて
懐かしい感じがしました。
上手く言えないのですが
自分も昔に戻ったような
そんな感じです。

また小説が出来たら
読ませてくださいね(*^^*)

私事ですが
今日で「わたし」が最終回となります。
現在の私の事が書いてあります。
Kikurageさんには色々とコメントをいただき
本当にありがとうございました。

また、もう1つのブログの方でも
宜しくお願いいたします(*^^*)
あちらのブログに宜しかったら
リンクを貼らせてくださいね(*^^*)

今年1年、ありがとうございました。
来年も宜しくお願いいたします。

良いお年をお迎えくださいね(*^^*)
2006/12/31 07:18  | URL | かんげつ #-[ 編集] |  ▲ top

-初短編おめでとう~!-
今年ももう終わりですね。
早速ライラック読ませてもらいました。

ヒロの気持ちにグッときました。
後半、本当に涙ものでしたよ。
人の心理状況を勉強なされてると関心しながら読ましてもらいました。

自分もKikurageさんを見習わないと・・
2006/12/31 07:23  | URL | イソギントリオ #-[ 編集] |  ▲ top

--
!ライラックですか!
えぇと・・・確か花言葉は愛が出てくる、的な・・・・・・あぁ!愛の芽生え?アレ?違うかな、でも何かそんな感じでした覚えがあります
北の方の木ですね、多分

そして・・・
なつきサンは何だったんでしょう・・
もしかして・・・ユーレイ?
幽霊よりも優麗って言われたい妙です(聞いてないし
そして学生時代も相手にされなかった?のは、もしやヒロ君もユーレ(ry

・・・・・!まさか、夏季はライラックの精?!

例えば、過去に枯れかけのライラックの木をヒロが助けた、とかで人間の姿に変わって友達の居ない(失礼)ヒロと一緒に過ごしてあげる、とか
ちゃんと会社にも勤めれて、もう自分の事なんか忘れてるだろうな、と思ってもう一度姿を現し、最後に綺麗な思い出としてヒロに覚えていてもらいたかった・・・・とか!

お~、そういう風に読んだらモヤモヤしませんね!
でも途中の幼少時の2人がσ(o・ω・o)的にクリティカルヒットでしたよ(何が;

えぇ、短編っていうのは連載書いてる人間にしてみればなんか新鮮で書きやすいですよね?(と同意を求めてみる

ではでは、長くなりましたが、ここら辺で★

最後に。ヒロ君、お仕事がんばってね
2006/12/31 10:31  | URL | 妙 #-[ 編集] |  ▲ top

--
短編、普段とはガラッと変わって切ない感じの内容でしたね(^-^)彼女は一体なんだったのでしょうか、やっぱり妖精さん!?
今年の終わりにこういう素敵なお話が見れて嬉しいです!!今度は2人のイラスト希望を・・ww
小さい頃の2人がもう可愛くて可愛くてしょうがなかったですww
ヒロ君が自分の名前を名乗っている場面がきゅーーーんときましたw
か・・・可愛すぎるww
また楽しい小説を読ませてください★今年は大変お世話になりました!これからもどうぞよろしくお願い致します!!(^-^)kikurageさんからは創作に対する刺激を受けたので本当に楽しかったですよ~!
2006/12/31 17:24  | URL | ひづきまよ #-[ 編集] |  ▲ top

--
かんげつさん

ライラックを読んで頂いて、有難う御座います。嬉しいです。

好きとも言って頂いて、感涙のあまりです。

今回、[Kikurage World]で初の短編小説を書かせて頂きました。
やはり、現代から過去の回想、そして、また現代と言う流れで少々長くてグレーゾーンな内容でした。

是非、また出来上がりましたら、短編物の方を書かせて頂きたいと思います(^0^)

∑(・д・;)ハッ!!
もしかしまして、私、早とちりをしてしまったのでは!!
スミマセン。

いえいえ、私の方こそ訪問して頂いて、感謝しております。

私も是非、かんげつさんのもう一つのブログのリンクを貼らせて頂きたく思います。

今年は、本当にお世話になりました。
そして、来年も宜しくお願い致しますm(_ _)mペコリ

かんげつさんも、良いお年をお迎え下さいませ(^▽^)つ


イソギントリオさん

ライラックを読んで頂いて、とても嬉しいです(*^0^*)

ヒロ君の気持ちにグッと感じて頂いて、とてもヒロ君も私も嬉しいです。

いえいえ、私もまだまだ勉強させられる事が沢山御座います。

私は、イソギントリオさんを見習いたいです!!


妙ちゃん

ライラックの花言葉。
妙ちゃんの仰られたのでほぼ正解です(*^0^*)
初恋、初恋の思い、若さなど色々御座います。

ライラックの花の精!!
とても、美しい表現をして頂いて、感謝です。
実は、この小説ライラックは、全般を通しまして、あえて抽象的な表現をさせて頂きました。
何故なら、読んで頂きました方に、それぞれの想像や解釈をして頂きたいと思ったからです。
ですので、妙ちゃんに、ライラックを深読みして頂いて、私はとても嬉しいです(*^0^*)

実は、私が全くオリジナルな短編物を書くのが始めてでしたので、結構時間が掛かってしまいました(^^;)
でも今回、ライラックを書いていて、短編物が、もっと書きたくなってきましたね。
慣れてくれば、短編の方が書き易いと思いますです(^▽^)つ

いえいえ、ライラックを熱く語って頂いて、逆に感謝です。
有難う御座いました~☆

ヒロ君も、喜んでおります♪


ひづきまよさん

ライラックを読んで頂きまして、有難う御座います♪

Kikurageらしくない物を書いてしまいました(爆)

結局、曖昧な感じでいなくなってしまいました。夏季ちゃんです。
それが、現実だったのか、それとのヒロ君本人だけの妄想に過ぎなかったのか、あえて明確にしていない内容です。

このライラックを読んで頂いた方々にそれぞれの想像や解釈に任せたいと思います。
ですので、ひづきまよさんに、夏季ちゃんが妖精と受け取って頂きまして、とても嬉しく思います。有難う御座います♪

子供を表現する事が、一番難しい所でした。
可愛いと言って頂いて内心ホッとしております(^0^)

是非、また短編の方を挑戦してみたいと思っております!!

こちらこそ、お世話になりました。
そして、来年も宜しくお願い致しますm(_ _)mペコリ

いえいえ、とんでも御座いません。
私は、ひづきまよさんのお人柄、そして、いつも面白い雰囲気で進んでゆく小説が大好きです(^▽^)つ
2006/12/31 18:51  | URL | Kikurage #-[ 編集] |  ▲ top

--
今年の最後に、素敵な短編をありがとうございました!
余韻がすごく後を引く、切ないお話であきららも好きです。

記憶って曖昧。
だけど、その曖昧なヒロ君の記憶だけに、確かに存在した証を残したかった夏季ちゃんは、やっぱりライラックの精?
もしくは、ヒロ君と知り合った時からやっぱり、この世の人ではなかったとか。。
kikurageさんの言われるように、色々な解釈が出来て、読むたびに違う色が見えてきそうで、味わい深いです。

今年一年、ブログを初めて、kikurageさんんと交流させてもらえて、本当に嬉しかったです。
ありがとうございました。
来年も引き続き、よろしくお願いします☆
2006/12/31 23:43  | URL | あきらら #-[ 編集] |  ▲ top

--
あきららさん

新年明けまして、おめでとう御座います♪
短編小説ライラックを読んで頂きまして、有難う御座いますm(_ _)mペコリ
あきららさんに、好きと言って頂いて凄く感謝しております(^0^)

私は、あきららさんの長編の火の中へと同じく、短編の数々、とても素晴らしくどれも私は好きです♪

今回、オリジナルとしては、短編は初の試みでしたので、どう見てもらえるか不安で、心配でした。
尚且つ、グレーゾーンな内容で、抽象的に致しましたのは、読んで頂いた方々の想像と解釈に任せようと思ったからです。
ですので、あきららさんに、深読みして頂きまして、この上ない喜びと感謝の気持ちでいっぱいです(^0^)

今年もお互いに、良い年に致しましょう。
2007/01/01 03:45  | URL | Kikurage #-[ 編集] |  ▲ top

--
新年、初っ端にいい小説を読ませていただきましたw

ヒロ君と夏季ちゃんの出会い、ちょっぴり切なくて素敵です(ノ◇≦。)
人への思い出は、何かに触発されて思い出したりしますね。子供の頃の想いは特に、匂いや味、光や色など、素直に受けた感覚と感情が一緒になってたり。
誰を好きになるのか、どのようなタイプに惹かれるのか。まだ分からない頃の「好き」という純粋な想い。
いや、もうwヒロ君がそこに居るような、心の最も大事な部分に触れられたような気分になってしまい、もうw「語りやがってwこのやろうw女泣かせがw」と、どつきまわしたい(笑)
正体が曖昧なのもイイですねw初恋の相手はいつまでも神秘的であって欲しいもんです(笑)
一緒に過ごす未来はなくとも、いつまでも心に残る切なく良い思い出物語☆読ませていただき、ありがとうございましたw
2007/01/03 00:07  | URL | c.p #-[ 編集] |  ▲ top

--
c.pさん

この度は、私の初の読み切り小説―――ライラック―――を最後まで読んで頂きまして、有難う御座いますm(_ _)mペコリ

c.pさんの仰います通り、女、男での感覚ではなく、子供の頃のお互いが意識する事の無い純粋な気持ちでいたヒロ君と夏季ちゃんを表現してみました。
その時の匂いや味、光や色などが記憶として自然と脳裏に焼きついております。
その確かな記憶と、最終的には存在していない事になっていた夏季ちゃんの存在感をかなりグレーゾーンにしました。
それは、読んで頂いた方々の想像と解釈に任せようと思いまして、あえてそうさせて頂きました。
ですので、c.pさんの感想は、私にとって、とても嬉しいです。
有難う御座います(^0^)

もう、遠慮なくヒロ君をどついちゃって下さい(笑)

こちらこそ、読んで頂いて、コメントまで頂きまして、感無量です。
2007/01/04 04:24  | URL | Kikurage #-[ 編集] |  ▲ top

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好きです!こういう物語^^
ちょっと切ないけれど、なんだか優しい気持ちになれました☆

ライラックの花言葉は「愛の芽生え」だったんですね!ググッてみました(笑)
夏季ちゃん、ライラックの花の特徴にちゃんと似せてたんですね☆そこにもビックリです^^
素晴らしい!

楽しく読ませていただきました☆
ありがとうございました^^
2007/01/04 23:10  | URL | chacha #-[ 編集] |  ▲ top

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chachaさん

早速、短編小説の方を読んで頂きまして、有難う御座います。
感激しております(^0^)

はい!ライラックの花言葉は、主に愛や恋などの始まりを意味しております。
わざわざググって調べて頂いて、とても嬉しいです(^0^)
夏季ちゃん自身が、ライラックの花言葉である様な、存在ですし、懐かしさと言う物も入れてみました。

最後の方を、曖昧に致しましたのは、読んで頂いた方々の想像と解釈に任せたいと思ったからです。

素晴らしいコメントを残して頂きまして有難う御座いました(^▽^)つ
2007/01/06 01:05  | URL | Kikurage #-[ 編集] |  ▲ top

-Kikurageさん、こんばんは♪-
随分前に読んでいたんですが、コメントを残さないで失礼していたんですね。
実はこの話、かなり余韻が残っていて、どうして最後に夏季ちゃんという存在が跡形もなく消えてしまったんだろうって。
消えなければ、お父さんの都合で引っ越して行ってしまった夏季ちゃんが、その後、何かの事故または病気でこの世からいなくなってしまって、ヒロくんを懐かしく思って、「でてきちゃたんだ」と思ったんですね。そして、言えなかった気持ちを告げたかったのだと。でも、夏季ちゃんは初めから存在しなかった・・・

俺達二人の存在に誰も気付いていないかの様に
なつきも同様で、存在感の薄い感じだった。

この言葉からはもともと存在しなかった・・って予感させますよね。

とても、不思議な話です。

ライラック、ネットで見つけました。
淡い紫の房になってゆれる、かわいらしい花なんですね。

短編すごくいいですね。今後も期待してます♪
2007/01/12 23:47  | URL | Yuka #gK54MRCE[ 編集] |  ▲ top

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Yukaさん

こちらの方にも、コメントを頂きまして、有難う御座いますm(_ _)mペコリ

実は、このライラックと言う短編のお話は、夏季ちゃん自身の存在を、かなり曖昧にしております。
あえて、その様な形の終わらせ方に致しました理由は、読んでくださいました皆さんの想像と解釈に委ねたかったからです。
ですので、Yukaさんのコメントを頂いて、とても嬉しく思っております(^0^)
冒頭に有ります様に、夏季ちゃんと過ごした確かな記憶と、本当は存在していなかったと言う現実の狭間で必死に記憶と現実を結び付けようとしているヒロ君の心情を描いております。

ライラックを検索して頂いて、有難う御座います(^0^)
ちっちゃな淡い紫色の花を咲かせます、仄かに甘い香りが致しますお花です!
花言葉は、初恋、初めての恋の感情など、初々しい花言葉になっております。

また、短編の方も挑戦してみたいと思います☆
2007/01/13 01:35  | URL | Kikurage #-[ 編集] |  ▲ top


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