文字の羅列が回転を速めたかと思うと、その全部が地面に吸い込まれる様に消えて行くと、やがて地面から文字の羅列が映し出された。
地面に映し出された文字は、神々しい光を帯びながら円形の羅列の配置を作り、時計回りの方向へ回転し始めたのだ。
文字の回転は、どんどん速度を上げて行く。次第に緑白い綺麗な円形のループが出来ると、リシェットは、その円の内側へと移動し始める。
リシェットが円の内側へ入ると、円形のループは、より一層光の強さを増す。
リシェットが召喚する為の行動は、今までの召喚の仕方とは、明らかに規模が違っていた。
ゲルドリックは、リシェットの強大な魔導召喚術を感じて、自然と左手から自らの魔導を解放。
幾ら召喚と言えど、それがどんな物かは、召喚するリシェット本人のみ知り得る事で、それに対する警戒心を強め、魔導使いとしての本能が、ゲルドリックをそうさせる。
リシェットのエルフ文字の羅列から出来た地面に写し出される円形のループの内側、リシェットの足元から徐々にシルエットが浮かび上がり、召喚されるレジェンドの姿が現れ始めた。
それは、今まで召喚された何よりも大きく、全長30メートルはあろうかとする程の生き物であった。
あまりの大きさに圧倒されてしまう。ゲルドリックは、後方へ下がり、一定の間合いを取る。
「どう?バジリスクの姿を目の当たりにしての感想は!」
そう切り出したリシェットは、バジリスクと言う名の巨大な生き物の顔の側面に乗っていた。
「バジリスク………!」
ゲルドリックは、眼の前の、竜の様な姿をしている大きな顔を見て呟く。
バジリスクは、北欧の神話で登場する程の有名で、トカゲと蛇を掛け合わせた様な姿をした生き物とされている。
このバジリスクの最大の特徴は、口から出す長い舌に触れる、或いは、攻撃されれば、石にされてしまうと言うのが最も有名な言い伝えで、石舌のバジリスクとして、ヨーロッパでは昔から存在すると信じられていて、人々から恐れられていた存在である。
だが、あくまで北欧神話や口伝えのみで、実際にバジリスクを見た者はいない。
「このバジリスクは、幻精霊の類の獣。今までの召喚獣とは、レベルが違う!」
バジリスクの顔の側面に乗って、見下しながら言うリシェット。そのリシェットを地面から見上げるゲルドリック。
お互いの立ち位置がそのまま力の差を表しているかの様である。
ゴゴゴゴゴゥ〜〜〜〜〜!!
巨大な口から、喉を動かす音が響く。
リシェットに召喚された、幻精獣バジリスクは、ゲルドリックと眼が合うと、自前の長い舌を垂らし、露にして威嚇する。

それに対して、注意深く様子を窺うゲルドリック。相手がどんな姿、形をしていようと、その戦闘スタイルだけは変らない。
暗黒の土地から難を逃れたセグナは、木の枝にしがみ付いて、リシェットの召喚の一部始終を眺めていた。
「なんだ?あのデカイ恐竜みたいな生き物は…。今回の召喚獣は、格が違うッ!幾らゲルドリックでも相手が悪過ぎる」
バジリスクの放つ、あまりにも危険な空気は、セグナの所まで届いていた。
そして同時に、絶望に近い心境でもあった。
あたりが静まり返る中、今かと始まらんばかりの張り詰める空気をひしひしと感じさせ、最大規模の戦いが開始される―――。